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ブログ

投稿日:2022.3.22

口腔内疾患と矯正治療

近年、歯の矯正治療はとても身近に感じられるようになってきました。
虫歯の治療が主だとイメージされる歯科医院も、いくつかの専門分野にわかれ目的によって患者さんが選ぶ時代になりました。
なかでも矯正歯科はかなり専門性の高い医療であり、長い期間のお付き合いになるため患者さんとの対話が重要であると考えています。
今回は、矯正歯科とは関連性の薄いと思われる口腔外科領域の、口腔内疾患との関係についてお伝えします。身近に感じにくいと思いますが、いざ発症してしまったとき不安にならないよう耳にしておくといいと思います。

矯正前検査でもみつかる疾患

レントゲン

一般歯科に比べ私たち矯正歯科では治療前、問診に加えてさまざまな検査をします。

  • 口腔内審査
  • レントゲン写真(頭部、正面、側方)
  • パノラマX線写真、歯のX写真
  • 顔と口の写真
  • 歯型

必要に応じて、顎関節のX写真や顎運動機能検査を行うこともあります。

歯根嚢胞

検査をしていく過程で、虫歯の有無や歯周病の進行具合なども判断することがあります。
さらに、あまり知られていない疾患がレントゲン写真に影として映ることがあるのです。
そのなかでも、多くみられるものに歯根嚢胞があります。
嚢胞とは病的な袋状のものをいい、そのなかには液状の内容物が入っています。歯科領域において、嚢胞は顎骨内にできるものと口腔内の軟組織にできるものがあります。
顎骨嚢胞のなかのひとつである歯根嚢胞が50%〜60%と最も頻度が高いとされています。
字の如く歯の根っこの先に膿の袋ができるのが特徴で、永久歯に多く乳歯に起こるのは稀です。
神経のない歯の根尖(根の先)にできる根尖嚢胞と歯根側方にできる歯周嚢胞があります。ともに繊維質のかたまりである肉芽種が変化してできるもので、膿の袋はゆっくりと大きくなります。
袋が小さなうちは症状がなく気づかない場合が多いですが、レントゲンを撮れば発症に気づくことができます。
では、大きくなってきた場合どんな症状でどんな治療をするの?悪い病気なの?と不安になるかと思いますが、さほど珍しいものではなく日常の診療ではよく見かける疾患です。

 

症状として

  • 根尖辺りの歯茎に触れると違和感がある
  • 根尖部辺りが腫れる
  • 何もしなくても痛い
  • 噛むと痛い
  • 歯茎から膿が出てくる

 

根の先には微小な穴があり、そこを通って顎の骨にも感染が広がります。そのため、珍しくない疾患とはいえ放置しておくのはよくありません。
例えば、歯茎のあたりに白いニキビのようなものをみかけたことはありませんか?
痛みもなければ痒くもないといった、なぞの症状。それこそが根の先で細菌が繁殖したサインです。
症状がなくても、自身で判断せずに受診することをおすすめします。

 

次に、治療法は症状によっていくつかあるため、以下でご説明します。

①根管治療

根治

初期の段階で症状がなければ、通常の根管治療のように被せ物や歯を削って根管内を無菌状態にした後、神経の代わりとなる薬を詰めて蓋をします。その後、しばらくレントゲンなどで確認しながら経過観察します。完治には数ヶ月を要します。

②摘出術

嚢胞が大きかったり、被せ物による金属が奥深くまで入っていて外せない場合は、嚢胞付近の歯肉を切開し摘出します。その時、感染している歯の根尖を少し切断し、歯牙の保存を行います。この治療法を歯根端切除術と呼び、歯茎を剥がしたり、顎の骨を削ったりするケースもあるため、術後痛みや腫れが出る可能性があります。

③抜歯

抜歯

炎症が大きく、歯牙が広く感染(溶けている)している場合は、抜歯と同時に嚢胞を摘出します。

④開窓術

痛みや腫れがひどく、緊急を要する場合には、嚢胞部の歯茎を切って膿の出口をつくります。それと同時に痛み止めや、抗生物質を服用して症状を抑えます。迅速に対応したい時は、点滴によって体内に抗生剤を送り込むこともあります。

矯正歯科との連携治療

レントゲン撮影後に注意して観察することのひとつに、過剰歯や埋伏歯というものがあります。
通常の歯の本数よりも一本多いものを過剰歯、埋まったまま歯茎から出てこないものを埋伏歯といいます。生えてくるべき歯が埋まっていたり、過剰歯が埋伏していることも珍しくありません。これら埋伏している歯にできる嚢胞を含歯性嚢胞といいます。
歯の表面はエナメル質と呼ばれるとても硬い歯質でできていて、歯の萌出はこれらの歯質が完成されて歯茎からでてきます。
歯の形成は、生前のお腹にいる時から歯胚という歯の芽となるものが発育してつくられます。その発育途中でエナメル期への嚢胞化が起こったとされています。

 

特徴として

  • 10歳前後から20歳頃にかけて見られることが多い
  • 顎骨にできる嚢胞の10%〜20%に相当
  • 小さいものであれば無症状
  • 大きくなると歯を含んだ嚢胞の全摘出
  • 埋伏している下の親知らずにももよくみられる

 

前歯や小臼歯では歯茎を切って窓をつくり、埋まっている歯を萌出誘導させることもあります。ここで誘導させるのが矯正歯科の役目になります。口腔外科専門医が開窓した後、矯正専門医にバトンタッチというわけです。
埋伏歯は正常に生えている歯列を変えてしまうこともあれば、嚢胞によって抜歯せざるを得ないことも起こります。そのため、矯正を考えている方であればなおさら、顎骨内の観察もしっかり行っておく必要があります。
嚢胞をつくらず一生を送る場合もありますが、起こるか起こらないかはある種の爆弾を抱えているようなものです。まずは専門医に相談することが先決です。

鼻の手術で起こってしまう嚢胞

蓄膿症の手術を行った数年後、手術部位を中心に嚢胞が発生することを術後性上顎嚢胞といいます。
嚢胞が拡大する方向によって、さまざまなタイプに分類されるが上顎どう全体に拡大するものが最も多く術後性上顎嚢胞の発症率として25%程とされています。
頬の腫脹や疼痛、上の歯の疼痛や違和感、鼻詰まりなどを主訴に来院することが多く、過去蓄膿症の治療歴があるかしっかり問診することで、診断をスムーズに行うことができます。
嚢胞が大きくなると眼球突出やひとつのものが二重にみえる複視の症状がでることがありますが、口腔外科領域では比較的よくみられる疾患となります。
エックス線所見により透過像が認められる事から診断し、急性炎症がある場合は抗生物質と鎮痛薬で消失していきます。
嚢胞が大きく、波動がある場合には内容物を取り除くことが必要となり、鼻腔から嚢胞壁を開放する手術が一般的ですが、鼻腔からのアプローチが難しい場合は歯茎切開を行うことがあります。
手術後、鼻の痛みや鼻血が出ることがありますが、粘膜の付着により治癒していきます。

胎生期の上皮で発症する鼻口口蓋管嚢胞

上前歯の根の裏辺りに、鼻腔から口蓋に走る神経のトンネルがあります。ここにできる嚢胞を鼻口蓋管嚢胞といいます。
切歯管部分に形成される切歯管嚢胞と骨の外部で口蓋粘膜下に形成される口蓋乳頭嚢胞がありますが、切歯管嚢胞が圧倒的に多くみられます。
嚢胞が小さいときは無症状に経過し、大きくなるにつれて口蓋部に膨らみを感じたり、違和感や痛みを感じる場合もあります。また、膨らんだ部分が破れて膿が出てくる場合もあります。
主な原因として、生まれる前の胎児は鼻と口が繋がっています。そして、成長するにつれて隙間は細くなっていきますが、何らかの理由で太いまま管が残った状態になることがあります。そして、上皮が残留し細菌感染などで一部が嚢胞化して症状が悪化します。
顎骨に発症する嚢胞の2.1〜3.8%とされています。
症状が出てから初めてみつけられる場合と、レントゲン撮影で楕円形の影として偶然発見されることもあります。
症状が軽い場合は、抗生物質の投与で炎症を抑えることができますが、大きくなっている場合は手術での摘出が必要です。切開をしての手術になりますので、時期や予後の計画などをしっかり話し合うことが必要になります。

まとめ

このように、口の中でも知られていない疾患は数多く存在します。
これらの疾患がみつかった場合、早急に手術をしたいと思うのが本音だと思います。ただ、矯正治療中であったり、これから矯正を考えている人にとって悩みのタネになってしまうことでしょう。
ですが、上記でも述べたように矯正と口腔外科はかなり連携した領域にあるということです。矯正中であっても、歯科医師同士が連携して判断し、一時矯正を休止して手術を行うケースもあります。その上で自身が思う不安や疑問をしっかり伝えることで治療がスムーズに進んでいきます。
矯正は保険適用されないため、高額なイメージがあります。
ただ矯正治療というのは、咀嚼することや話すこと、歯周病や歯を失うリスクを回避させることもできるのです。
歯を正しく並べて美しくするだけではなく、患者さんのQOLの向上を目的とするため治療によって得られる満足度は高いといえます。

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